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  第十二話「滲出性中耳炎の治療」
1.正常な鼓膜 2.滲出液が貯まっている鼓膜
1.正常な鼓膜は真珠色に光っている。
2.滲出性中耳炎の鼓膜は、にごっていて、水平線の下に粘液が貯まっているのを観察できる。
3.切開後粘液が出ている鼓膜 4.切開後の鼓膜
3.鼓膜にイオン麻酔(鼓膜に麻酔液をたらす)をして、無痛下で鼓膜切開すると粘液がでてくる
4.写真3の粘液を吸引すると写真のようなきれいな鼓膜になる。この小さな孔は数日で自然にふさがる。すべて無痛でおこなうことができる。
以下、私が生涯忘れることできない嬉しい経験談をご紹介する。
長期間治療されずに放置されていた5才位の滲出性中耳炎のお子さんを初診時に鼓膜切開し粘液を排除した。
翌日、そのお母様が私の前で、涙を流していた。「どうしました?」と、いう私の問いに対するその方のお返事に感動した。
「矢野耳鼻科で鼓膜切開をしたその直後から、急に聞こえが良くなった。そのこと以上に私が嬉しいのは、今まで、この子は落ちつきがなく、親に対しては反抗的、理由なく妹をいじめることが多く、嫌な性格な子だと思っていたが、急に素直になり聞き分けがよくなった。それ迄よほど耳の不快感が強かったのだろう。それなのに治療せずに放置して、可哀想なことをしてしまった。本当は良い子だったのに。涙、涙!」。私も言葉がなかった。
滲出性中耳炎の不快感は強いのに、幼児はそれを言葉で表現することができないので、保護者の方が気をつけるより他ない。カゼをひいたら熱がなくても、痛がらなくても、耳鼻科専門医を受診して、鼓膜に病変があるかどうかを確認してもらうことが重要だ。
これから迎える秋から冬にかけては滲出性中耳炎がふえる季節だ。お母様方に充分に気をつけて頂きたい。
            2010年10月1日
  矢野耳鼻咽喉科院長  医学博士 矢野 潮