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第36話「猛暑日本列島」
 今年の日本列島は暑かった。7月に岐阜で観測された39.4°が、今年の最高気温であったという。まさに狂ったような猛暑だ。
赤と緑のかき氷 
食べ過ぎに注意
この猛暑、高温多湿のため体調を崩した患者さんが多かった。いわゆる熱中症、体温調節の不良、それにつけこんだウイルス感染、小児科医が好んでつかう“いわゆる夏カゼ”だ。冬のインフルエンザ流行期と異なり、比較的、軽い症状で治癒するケースが多い印象をうけた。この原稿を書いている9月12日も発熱、ノドの痛みで来院した大人の患者さんを多数診察した。尚、ウイルス感染症以外に、めまい、浮遊感、突発性難聴、帯状疱疹(ヘルペス)、トビヒ、チャドクガ皮膚炎の患者さんが例年よりはるかに多かった。体温調節異常による体力低下、睡眠不足、それにストレスが過剰に加わったためだろう。
クーラーで冷えた部屋、外出すれば猛暑、体温調節機能は混乱してしまう。特に、調節機能が低下している高齢者、調節機能の未熟な乳幼児は温度の変化に対応しきれず、体温の異常を起こして当然だ。「クーラー病」、という言葉を当てはめる医師もいる。簡潔にして的をいている病名だが、正式な医学用語としては認められていない。
エアコンをつける、その排熱が気温を押し上げる。まさに悪循環の繰り返しだ。車の排熱、全国に普及している舗装道路による照り返し、ビル群はそれに加えて風の流れを妨げる。都市開発のため、日陰を作り水分を蒸発する樹木も少なくなっている。この都市化によるヒ-トアイランド現象が猛暑の原因であろう。
又、「温暖化は地球全体の問題だ」、という解説を新聞で読んだ。
この解説を読み、私は慶応高校時代に受けた西岡秀雄先生の人文地理学の講義を思い出した。西岡先生のライフワークは「寒暖700年周期説」だ。何しろ、私が高校生の頃の記憶で、講義のノートも紛失してしまい、おぼろげな内容しか覚えていない。そのかすかな記憶では地球温暖化の原因はCOだけではない。地球は“寒暖”を700年周期でくり返している。西岡先生の講義では、奈良平安時代は暖かく、公家を中心とした王朝文化が栄えた。寒い鎌倉時代になると、殺伐とした風情の武士が幅を利かした。文化史の上で気候が与えた影響が大きい。その他にも、樹木の年輪、桜の開花時期の変化等から、地球の寒暖は700年を周期としてくり返されている事に確実な根拠があるとしている。そして、21世紀頃には最暖期を迎えるだろう。昨今の温暖化はその道筋に過ぎないと、西岡先生が断言なさった事だけははっきりと覚えている。今、まさに21世紀だ。西岡先生の学説は正しかったのだろうか。
西岡先生の期末試験で、「寒暖700年周期説によれば、来年は今年より気温が高いか?」、yes no で回答しろという問題が出た。私の答えは no だ。yes と答えた学生は単位を落とした。
講義中に温暖化は周期的変化であって、直線的に変化する事象ではないと何回も念をおされたからだ。
何故、60年も前の高校時代のテストを記憶しているのか、私には分からない。西岡先生のお人柄の故だろうか。
今年の夏は暑かったが来年の夏は更に暑くなるのか、西岡先生にお会いできればお聞きしたい。


西岡先生の答えの予想:あすの事は考えるな きのうの事は忘れろ(院長自作)


          2012年10月1日
矢野耳鼻咽喉科院長  医学博士 矢野 潮