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第38話「ノドの精密検査」
 当然の事だが、ノドの異常で耳鼻咽喉科医を受診する患者さんの数は多い。口を開ければ見える範囲のノド(咽頭)の病気が多いが、ノドの奥にある喉頭(ノドボトケの中)の病気を見逃すと危険なことがある。
耳鼻咽喉科医の研修で、最初に苦労するのが喉頭の診察だ。間接喉頭鏡(写真1)という器具を片手に持ち、患者さんに舌を出来るだけ長く出して頂き、それをガーゼにくるんで思い切り引っ張ってノドの奥を見るのが基本だ。しかし、乳幼児や口を開けるとゲーゲーするノド反射の強い患者さんのノドの奥を小さな鏡で照らして見るのは至難のわざだ。無理に舌を引っぱって舌の下を傷つける事もよくある事だ。
然し、どんなに無理をしても喉頭及びその付近の炎症、腫瘍を見逃す事は出来ない。患者さんも、耳鼻咽喉科医も泣かされたものだ。だが、間接喉頭鏡の手技に精通しなければ“耳鼻咽喉科専門医の資格なし”、と言われた。

 
写真1
然し時代が変わった。いつのことかは正確には覚えていないが、40年ほど前、今の軟性喉頭ファイバースコープ(写真2)が一般化して、喉頭の診察が無痛に、しかも正確にできるようになった。
耳鼻咽喉科外来診療の革命だ。
 
写真2
喉頭ファイバースコピーは経鼻的に行うために、鼻の奥、ノド、喉頭(写真3)(写真4)及びその周辺まで一度に正確に診察する事ができる。

 写真3        写真4
副鼻腔炎(ちくのうしょう)、ノド及び喉頭の危険な炎症、癌等の腫瘍を見逃す事がなくなった。何という進歩だろう。
以前は、仮性クループ(夜間起こる乳幼児の一時的な呼吸困難))で片付けられていた乳幼児の喉頭も危険か危険でないかを正確にみる事が出来る様になった。又、成人が窒息死する危険のある喉頭蓋炎(写真5)、喉頭浮腫(写真6)の早期診断も可能になった。
 
写真5窒息死する危険のある喉頭蓋炎
 
写真6窒息死の怖れあり喉頭浮腫
声ガレの鑑別診断もファイバースコープを使用すれば比較的簡単だ。
声ガレの原因は、声の使い過ぎによる単なる喉頭炎、声帯ポリープ(写真7)写真(8)、声帯結節(写真9)、前癌状態声である声帯白斑症(写真10)、喉頭癌(写真11)、加齢による声帯の萎縮等がある。喉頭癌の確定診断には病理学的細胞検査が重要だ。市民病院、大学病院に紹介精査を依頼している。 

写真7声帯ポリープ写真8巨大な声帯ポリープ
 
写真9声帯白斑症    写真10喉頭癌

写真(11)声帯癌・喉頭癌
医師である私自身も自分が胃癌、大腸癌、前立腺癌を発症するのではないかと、内心ではビクビクしている。然し、喉頭癌になる心配はしていない。理由は禁煙者だからだ。喫煙者は喉頭癌の心配もしなければならない。喫煙は絶対に危険だ。
尚、最近ではノドの異常感を訴える逆流性食道炎の患者さんが多い。その疑いのある患者さんは、胃内視鏡の上手な専門医に紹介している。安心してご相談いただきたい。
追記 今回の院長余話は、写真も多く載せたのですが専門的過ぎておわかりにくかったと思います。
ノドの病気がご心配の方はどうぞ早めにご来院下さい。
精密検査の上、詳細に説明し、責任をもって加療いたします。

           2012年12月1日
 矢野耳鼻咽喉科院長  医学博士 矢野 潮