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第50話「病巣感染     
    (びょうそうかんせん)」

 最近、掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)で悩んだ女優さんの闘病記を拾い読みした。この女優さんは愛犬家でありながら、ヘビースモーカーであるという。喫煙は掌蹠膿疱症というややこしい名前の病気には天敵だ。犬に掌蹠膿疱症があるかどうかは知らないが、私は犬の健康の方が心配になる。

 犬の方を人間より心配する私は

        医師として失格だろうか?


本題に入る。
一般の方にはあまり知られていない病名だと思うが、私のクリニックに典型的な掌蹠膿疱症の患者さんが診察にお見えになり、写真を撮ることを快諾してくださったので、今回はこの話題を取り上げることにした。
掌蹠膿疱症は病巣感染(びょうそうかんせん)の代表的な病気だ。
ややこしい話だが、病巣感染とは、慢性の扁桃炎、虫歯等の慢性炎症が身体の何処かに隠されていて、それとは一見無関係を思われる皮膚の病気、リュウマチ等の全身的な病気の源となる場合、その基の病気を病巣感染という。
“病巣感染”という言葉からも連想されるように、鳥が何処かに巣を造り、飛び立って遠隔地をフンで汚すようなものだ。
耳鼻科領域では、慢性扁桃炎が主役だ。そして、被害を受けるのが皮膚である事が多い。
      慢性扁桃炎→皮膚疾患
と、いう図式だ。
皮膚疾患の中では、掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)という疾患がしばしば問題となる。私のクリニックに見えた患者さんもこの皮膚病の患者さんだ。
勿論この病気は命に関わる病気ではないが、患者さんにとっては、不愉快極まりない。手洗いもままならず、靴を履くこともできない。深刻な悩みだ。病気の源である扁桃炎は表にでないので、患者さんは当然皮膚科医の診察をうけ、内服薬、軟膏の治療を受ける。そして問題になるのは、皮膚科医の中でも、病気の基と考えられる扁桃腺をとる事に賛成派と非賛成派があることだ。
耳鼻科学会の研究では、扁桃腺をとる事の効果は、81.9%と高率だ。皮膚科医と耳鼻科医の考えがまとまらなければ患者さんを余計に悩ませるだけだ。
我々耳鼻科医は、掌蹠膿疱症で一生悩むより、扁桃腺の手術を行うべきだと思う。扁桃腺の手術は、入院5日位、手術後のノドの痛みは数日だ。必ず掌蹠膿疱症が扁桃腺の手術で治るという保証はないが、
手術を選択する方が賢明だと私は考える。
「扁桃腺はとるべきか、とらざるべきか、それが問題だ。」
この文言は大昔から医学会で論議されている。もしかすると、シェクズピアの名言より以前からあったのかも知れない。


追記:喫煙が掌蹠膿疱症の発生率を7.2倍に増加するという
喫煙で増加して、禁煙で緩和する。
尚、朝日新聞の夕刊(2013年11月30日付け)に飼い主の喫煙習慣が犬のアトピ-性皮膚炎の発症リスクを増加すると書かれてあった。
         2013年12月2日
矢野耳鼻咽喉科院長  医学博士 矢野 潮