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第57話「口の中の不快感
 最近、口腔内の乾燥感、異常感を訴える高齢の患者さんが増えたような気がする。
東京から転居してきた高齢の患者さんが私のクリニックを受診した。口腔内乾燥感のために、東京の複数の大学病院で種々の検査・治療を受けたとのことだ。藤沢でもドクタ―ショピングを続けたが、いかなる治療も効果がなかったようだ。
余話は病気の解説が目的ではないので、シェーグレン症候群、糖尿病、逆流性食道炎、口腔内腫瘍等の本格的疾患には触れない。
以下の解説は高齢の方には失礼かもしれないが、私自身も高齢者の中に含まれるのでお許しいただきたい。
加齢とともに、肌の潤いも失われ、涙の分泌減少はドライアイに、唾液の分泌減少はドライマウスの原因になる。その年齢になってくると、歯も悪くなり、歯科の治療、義歯を入れることも多くなる。
当然、歯(義歯も含む)が舌、唇、頬の粘膜を刺激して、口の中の不快感の原因になる。更に、高齢者は、高血圧、心臓病、不眠症等、の薬を内服している方が多い。その種の薬の副作用の項目を読むと、殆どの薬に“口渇”と書いてある。しかし、上記の病気には治療のために内服薬が是非とも必要なのだから、口渇程度の副作用は我慢するより仕方がない。又、歯の治療が必要な方は即刻歯科の治療を受けて頂きたい。
そして、神経質な方ほど、頻回なうがい、舌磨き、トローチ、チューインガム、ノド飴、口腔スプレイを常用する事が多いようだ。この行為は全て口内異常感をひどくする。特に舌苔(舌のコケ)を気にして、舌を磨くのは最悪だ。舌痛の原因になる。
 
 私の経験では、耳鼻科医による鼻・咽頭処置(塩化亜鉛を塗る)・ネブライザー以外は何もしないのが良いようだ。
体には何でも“やり過ぎ”は、“やらなさ過ぎ”よりも良くない。
   以上、私の長い臨床経験からの実感だ。

         2013年7月1日
矢野耳鼻咽喉科院長  医学博士 矢野 潮