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第62話「医療の守備範囲
 “総合診療専門医”を育成する構想が進められるという。
総合診療専門医(以下、総合医と略記する)とは、患者さんの年齢、性別、病気の種類を問わず幅広く診断、治療にあたる医師のことだ。わかりやすくいえば家庭医がそれに近いと思う。
耳鼻咽喉科専門医である私は、この総合医の意義そのものに疑問を感じる。総合医は医療における、“何でも屋”と言葉を置きかえることもできる。診療に聴診器1本あれば充分だった昔と違い、現在の複雑に高度化した先進医療界の中で、何でもできる医師など育つはずはない。厳しい言葉を投げかければ、“何事もできる医師とは、何事も中途半端にしかできない医師”、と言い換えることもできる。
自分のクリニックの診療にのみ心血を注いでいる私は、総合医の詳しい具体案など詳しくは知らないが、何かそこに落とし穴があるような気がする。その落とし穴に、患者さんと医師の両者が落ちこんで、痛み分けになるような気がしてならない。危惧であることを望む。
幸福なことに、藤沢市内には優秀な各科専門医が存在し、そして藤沢市民病院もある。各々が連結を緊密にとれば最高級の医療を行う事ができる。


藤沢市医師会員の集い 
 緊密な連携といえば、医療はチームプレイを重視する団体競技と似ている。かりに野球を例にとる。野球もベ-スボ-ルと進化して、ナインの連携プレイが重要視されるようになった。以前テレビのト-クショ-で、「ジャイアンツのサード長島選手が、全盛時代にショ-トよりもセカンドベ-スよりのゴロをとり、1塁で刺したとことが3回あった」、と話していた。長島のような天才だからできたのだろう。
ショ-的要素を必要とするプロスポ-ツと異なり、医療にはスタンドプレイは危険だ。
各医師が自分の守備範囲(専門分野)を堅実に守り、自分の専門外は、その分野の専門医と緊密に連携する事が、日常医療の充実につながると確信する。耳鼻科咽喉科医である私は、小児科医、内科医、脳神経外科医との緊密な連携を特に重要視している。
あえて言う。“何でもあつかう医師は、何もあつかえない医師だ。”
曾野綾子氏のエッセイから引用すると――


         2014年12月1日
矢野耳鼻咽喉科院長  医学博士 矢野 潮