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第70話「耳そうじの危険」
 いよいよ夏休み、海水浴のシーズンです。
今回は、スイミングの敵、耳掃除の危険について詳しく解説します。
ケガで孔のあいた鼓膜
当院のような耳鼻科専門クリニックには、耳そうじをしてケガをし患者さんが毎日のように診察にみえる。
その度に思うのだが、耳そうじのケガで通院するほど無駄なことはない。耳の入り口(外耳道)だけなら、大したことではないが、鼓膜に孔をあけたら大変だ。上記の写真のように鼓膜に大きな孔をあけてしまうと、ふさがる迄に数ヶ月かかる。1年以上たってもふさがらない時は、鼓膜再生の手術が必用になる。
大人の場合は自分自身、子供さんの時はご両親が犯人の事が多い。耳カキ、綿棒ともに凶器となる。
又、悪意あるケンカは別として、両親のお子さんへの愛の鞭(頬への平手打ち)は非常に危険だ。鼓膜への空気の圧迫で、下の写真のような綺麗の鼓膜が一瞬に血だらけになり孔があいてしまう。しつけのために、子供さんを叩くならお尻にしてほしい。然し、お尻を叩くことも最近では虐待と解釈されるらしい。
以前、「耳そうじをする暇があったら、台所の掃除でもしていなさい」、と母親に注意したら、台所は毎日きれいに掃除していますと怒られた事がある。それ以後、この文言は禁句にした。
 
“両親が耳そうじする時は、ケガをさせないように気をつけてやりましょう”という、耳鼻科医がいるが、私は絶対に反対だ。耳は聞くもので触るものではない。
耳垢を取りやすいグッヅ等の宣伝も良くない。
長い耳鼻科開業医の生活で、一番すごい経験をしたのは、耳掃除をするために、成人女性が掃除機を直接自分の耳に当てて、耳垢と共に鼓膜も吸い取った症例だろう。こうなると、症例というより事件発生だ。
又、耳の中に入ったシャワーの水を乾かそうとして、高温にしたドライヤーを耳に直接当ててヤケドをした人もある。
耳掃除の事故は枚挙に限りない。
三ヶ月から半年に一回、耳鼻科医を受診し、専門医が耳垢をとり,同時に鼓膜をチェックするのが重要だ。特に、乳幼児には予期せぬ滲出性中耳炎等が発見されることも希ではない。





         2015年8月1日
矢野耳鼻咽喉科院長  医学博士 矢野 潮