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第97話「突発性難聴」

 突発性難聴は、ある時、急激に起こる、原因不明の高度の難聴をいう。私達耳鼻科医が絶対に見逃してはいけない病気だ。




突発性難聴は、一側の耳に起こる事が殆どだ。今も、はっきりと覚えているが、若い女性の患者さんで、前夜眠る前は異常がなかったのに、朝起きたら完全に両側の耳が聞こえなくなっていたとの事、初診時に泣かれて困った事を思い出す。両側の突発性難聴を経験したのは、私の長い耳鼻科医の経験の中でその患者さん一人だけだ。
突発性難聴は一日も早い治療の開始が必要だ。治療が遅れると そのまま、高度の難聴が残ってしまう事が多い。
患者さん自身が、難聴を自覚しながら2週間以上放置した場合、又、耳鼻科医が直ぐに適切な治療を施行しなかった時、患側さんの耳が完全に聾になる事がある。私は高度の突発性難聴の患者さんは一日も早く、対応出来る病院に入院治療を依頼することにしている。入院治療を依頼する理由を次に説明する。
病院では、ベット安静約1週間、その間にステロイド等の薬剤を含む点滴療法、高圧酸素療法を行う。難治性の場合には神経節ブロックを行うこともある。
突発性難聴に似た病気で、急性低音型感音難聴という病気がある。
これを、突発性難聴と混同している耳鼻科医もいる。この病気は再発する事もあるが殆どの場合治癒する。これは、突発性難聴とは明らかに違う病気だ。
聴神経腫瘍(良性の脳腫瘍)も突発性難聴と同じような症状で発症することがある。私は、必ず脳神経外科に、脳の精密検査を依頼する。病診(病院・診療所)連携、診診(診療所・診療所)連携の必要性を強く感じる。
突発性難聴は、原因不明といっても、ストレス、疲労が発病の引き金になる事は間違いない。
唐突だが歌人正岡四季(1867~1902)も突発性難聴に罹患罹したと云う話がある。真実かうかは定かではない。
真実だとすれば、正岡子規も法隆寺法に着いた時は長旅の疲れで突発性難聴となり、耳鳴りを発症したのではなかろうか。正岡子規が病弱であった事を考えればまんざら嘘ではないかも知れない。




       2017年11月1日
矢野耳鼻咽喉科院長 医学博士 矢野 潮