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第104話「パトカー」

 私達医師は犯罪捜査を行っている刑事さんから、患者さんのカルテ公開を求められることがある。医師としての守秘義務との関連を医師会長に質問したところ、“警察には協力する”のが、医師会のスタンスとの事だった。刑事さんと話をしている内に、私は彼等は仕事には熱心だが、仕事外での話は面白く、優しい人達が多い事を知った。その後、私は刑事さんに出来るだけ協力するようにしている。
私の友人が数年前、都内の一流ホテルに車で到着する寸前、警察官に停車を命じられた。当日、そのホテルには国際的な要人が宿泊していたため、ホテル内への車の乗り入れは禁止されていた。その警察官は、彼の車をホテル近くの路上に駐車するように命じた。「この場所は駐車禁止地域ではないのか?」と、彼が質問すると、今日は特別だから、その場に駐車するようにとの事だった。彼が、ホテルから帰ってくると、その場から車が消えていた。そして、その警察官の姿は見えず別の警察官がいた。彼に車の事を聞くと、「此処は駐車違反地区だから、レッカー移動した。違反切符を切るから、車を自分でとりに行くように」と指示された。
怒った彼、「今迄、自分は警察のことは何でも聞いて来たが、今後は警察のいうことは一切信用しない。自分の弟は、弁護士なので警察を訴訟する。」。
おれた警察官「違反は見逃すから、車の置いてある所までタクシーでとりに言ってくれ」。友人「それではタクシー代を出してくれ」。警察官「それは出来ない」。友人「それではパトカーで送ってくれ」警察官「それは、勘弁してくれ」。
結局、彼はタクシー代自腹で、車を取りに行った。パトカーに乗り損なった事を残念がっていた。
 ゆかり副院長の幼児期、家族で行楽地に遊びに行った帰路、私の車に接触して追い越した車が、歩行者に軽い怪我を負わせて止まった。
反対車線を走っていたパトカーがUターンして駆けつけて来た。
 
何とその暴走車の運転者は無免許だった。運転手は直ぐにパトカーに乗せられて行った。けが人は只の擦過傷だったのが幸運だった。私もパトカーに乗って見たかったが、自分の車、家族がいたのであきらめた。
私は一度パトカーに乗せてもらいたいと思っている。それは、古いアメリカのテレビドラマである「逃亡者」のファンだからだ。
妻殺しの容疑をかけられた小児科医が、全米を逃亡し続ける話だ。無実が証明され逃亡する必要が無くなった最終回、彼が街を安心して歩いていると、その脇をパトカーが走り抜ける。実に巧みにパトカーが小道具として使われている。それ以後、意味なく私はパトカーにあこがれた。




       2018年6月1日
矢野耳鼻咽喉科院長 医学博士 矢野 潮