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第105話「地震予知」

 熊本地震の被災地の方々には心から御同情申し上げます。
私の友人の地震学者に聞くと、今の日本の地震学は急速に進歩しているとの事だ。それにしては、「阪神淡路大震災、東日本大地震、今回の熊本の大地震も予知出来なかったではないか」、と批判すると、自然現象は人知を上回るものだと軽くいなされてしまった。更に、医師である君自身も自分の寿命を予知できないだろう。それと同じ事だと皮肉られた。
熊本地震の詳細は新聞テレビで知る知識しかないが、“エコノミークラス症候群”という言葉に些かの疑問を感じる。私は学生時代、循環器の講義で“ロングフライト症候群”、と教わった記憶がある。“エコノミークラス症候群”という言葉には差別用語的な響きがある。
さて、昔から、怖ろしいものの代表として、“地震、雷、火事、おやじ”があげられている。(おやじは、父親を指すするのではなく、台風を意味するらしい。))
私は、数年前、北海道旅行の際、昭和新山記念館を見学し、三松正夫氏(1888.7.9.~1977.12.8.)の業績を知り深く感銘した。
有珠山の噴火を体験した三松正夫氏は、一介の郵便局長でありながら、アマチュア地震研究家として火山の誕生をみつめ、私財をなげうち、地震予知に生涯をささげた。自身亡き後は、後世の学者に地震予知の研究を託したという。
 
最近、いろいろな研究で、ねつ造、公金の不正流用が取りざたされている。その真偽は知らないが、三松正夫氏のような高潔な、すがすがしい学者の存在を期待する。
研究と言えば、私も若い頃、研究に没頭した時期がある。テーマは扁桃腺の手術の際の、ショックとその予防についてだ。その頃の扁桃腺の手術は今と違って局所麻酔下で行われていた。今、普通に行われている全身麻酔下の手術と違い、ショックを起こす危険がはるかに多かった。そのため、ショック予防の研究をしたのだが、ある程度の成果をあげた後は、研究から身を引き、開業医の道に突き進んだ。それに、現在は扁桃腺の手術は全身麻酔下で行われるようになり、ショックの危険はなくなったために、私の研究は日の目を見なかった。然し、扁桃腺の手術が局所麻酔から全身麻酔に移行した経緯に多少の貢献をしたのではないかと、多少の自負はある。



       2018年7月1日
矢野耳鼻咽喉科院長 医学博士 矢野 潮