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第111話「納得出来ない事」

 私はどちらかというと、些細なことにはこだわらない大ざっぱな性格だ。親友は私の事をアバウト過ぎると酷評する。然し私自身は、それが私の数少ない長所の一つだと思っているので折り合いがつかない。例えば、急須から日本茶を入れる時の作法にこだわる人がいると聞いて驚いた。お茶なんかどんな入れ方をしても飲んでしまえば、同じだと私は思うのだが、私が作法を知らないだけかもしれない。
然し、その私も医療に関するかぎりはアバウトではない。私がその道のプロだからだ。
私は投与する薬の種類はできるだけ少なくする医療を実践している。薬剤の副作用を心配するからだ。しかし、薬剤の副作用について調べる場合、その説明書の副作用の項目には納得出来ない事が多い。第一線の開業医は患者さんに薬剤の副作用の説明で常に悩まされる。
例えば杉花粉症のこの時期(この原稿を書いている2019年1月)に投薬される全ての抗アレルギー剤の副作用の項目に、「妊娠中の婦人にはこの薬剤の効果が危険性を上回ると判断した時のみ投与しろ」と書かれてある。鼻、眼の症状で患者さんが苦しむのはお気の毒だが、花粉症は命に関わる危険な病気ではない。それ故、「花粉症の危険性とは何を意味するのか?」、と、学識経験者に問い合わせた所、その返事は「くしゃみをして流産したら危険だ」との事だ。そのような事態を、どんな医師でも察知することは不可能だ。「この薬は、妊婦に対する安全性は確立していないので、妊婦には投薬禁止」と記載してくれれば、患者さんも納得出来るし医師も悩まなくてすむ。
薬剤の副作用の説明書の書き方には納得出来ない事が多い。
尚、妊婦担当の産科医は、我々よりも妊婦に対して薬剤を比較的楽観的に投薬するようだ。私が少し神経質なのかも知れない。


       2019年2月1日
矢野耳鼻咽喉科院長 医学博士 矢野 潮