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第119話「院外処方箋」
 院外処方箋に関する投書が某新聞に記載されていた。交付日を含め4日間と定められている院外処方箋の有効期間を長く出来ないだろうか、という内容だ。一見もっともな話だが、刻々と病状の変わる病気もある。その度に違う薬を投薬しなければならない。院外処方箋の有効期間をあまり長くすると、病状と薬剤が不適合になり、投薬内容を変更しなければならない時、患者さんの経済負担が大きくなる
 
 
 薬局から期限が切れた処方箋の期限延長を望む電話がしばしばある。余程の事がないかぎり私は承諾する。然し、私が不思議に思うのは、薬局依頼の処方箋変更時は、発行時には必要な私の押印が不要なことだ。それを考えると、薬局が私の同意を得ずに内容を変更する事も可能だろう。
尚、紛失した処方箋の再発行は実費となり、薬剤費も健康保険が摘要されず、全て自己負担になる。
 
それを考えると、私は「掛かり付け薬局を決めろ」、という意見には反対だ。遠方からの患者さん、通勤途中に当院を診療する方も多い。いくら、住居の近くに掛かり付け薬局をあっても、薬局にも営業時間がある。患者さんが帰宅する時には薬局がしまっている事もある。門前薬局(嫌な言葉だが)ならその心配はない。私のクリニックの周辺には3軒の門前薬局がある。
 
門前薬局と言っても、クリニックの経営とは全く関係ない。全部違う経営者と薬剤師だ。門前薬局は近くの医院から処方される薬剤を熟知しているので、在庫切れの心配もない。
院内での投薬を希望する患者さんも少なくない。医師には、薬剤師と同様に薬剤を管理し、投薬する資格はある。然し、自分のクリニックで薬を出す事は不可能だ。診療を第一優先にするべき医師に薬剤の管理、投薬の責任を負わせるのは無理な話だ。又、専門の薬剤師を複数人常駐させることも出来ない。某大学院では、診察の予約時間が決まっていても、待ち時間が3時間、診察5分、更に、院内で薬を受け取るのに1時間かかるそうだ。
抗生剤などを除いて、慢性疾患の薬は3ヶ月分まで“まとめ投与”が出来るという。然し、3ヶ月分まとめ投与された花粉症の薬を家族3人が分けて仲良く飲んだという話を聞いて驚いた。当人しか、花粉症の診断はついていないのだ。それ以後、私は4週間分しか投与しない事に決めた。
更に驚いた話がある。友人の内科医が不眠を訴える患者さんに、睡眠薬を一週間単位で投与していた。その患者さんは、その睡眠薬を飲まずにためておいて、頃を見計らって纏め飲みをして自殺をした。警察が介入してきて嫌な思いをしたという。
祖母の時代、我が家に常在してあった“越中富山のおき薬”につては、朧気な記憶しかない。



 



            2019年10月1日
矢野耳鼻咽喉科院長医学博士    矢野 潮