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第121話「医学部推薦」

 学部推薦は、高3の成績で決まる。医学部希望の私は3年生の時には、それに備えて猛勉強した。何の試験かは忘れたが、私はカンニングの疑いをかけられた。私の後ろの席に水球の猛者がいた。彼は水泳ばかりしていて、勉強はまったくしない。彼が、私の答えを写すために、私の答案用紙を後ろからひったくってしまった。魔の悪いことに、その時の試験官は担任の先生ではなかった。その馴染みのない先生が、担任の先生にすぐに報告したので。教員室に呼び出された。担任の先生は、水球の猛者が勉強をしいない事を良く知っている。「君が、彼から答えを聞く必要はないだろう。本当にカンニングをしたのなら、医学部推薦はなくなるぞ!“カンニングなぞしていません”と、教員室中に鳴り響くような大きな声で叫べ。後は自分が引き受ける。」私は、担任の先生の言葉通りに叫んだ。「帰って良し!」。私は担任の先生の粋な計らいで医学部に無事推薦された。

 

 医学部高学年の時の臨床講義で、重症な患者さんの症状を説明され、「これから、考えられる病気の診断名がわかる者は手を挙げて答えよ」、と、内科学の質問があった。私は、副腎の腫瘍(グラウィッツの腫瘍)ですと、得意気に答えた。教授が、「その通りだ!君は名医だ」。私は鼻高々だった。然し、この話には落ちがある。その患者さんが亡くなってから行われた病理解剖の結果は白血病だった。慶應病院の内科も、私と同じ誤診をしたことになる。




         2020年4月1日
矢野耳鼻咽喉科院長医学博士 矢野 潮