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第129話「入浴」

 大学病院勤務一年目、手術室で手洗いをしていた時、先輩に、その様な手洗いなら、「お手洗い」の方が清潔だと𠮟責去れた。そして、亀の子たわしを使えと言われたので、手術場の看護婦に、たわしの在りかを尋ねたら、あれは冗談ですよと笑われた。先輩に、「神聖な手術場で冗談を言わないでください」と叫んだら不思議そうな顔をされた。
 
亀の子たわしと、言えば私は子供の頃、きれい好きな父親に体をたわしで洗われ、五右衛門風呂に入れられるのが常たった。体がしみて痛かった記憶がある。
今はちがう。シャワーを使ってから、湯舟に入るのが普通のようだ。シャワーだけでも、お風呂に入ると言うらしい。
そこで、手術後の患者さんと看護師さんとの間に、言葉の行き違いが起こる。

 
今の皮膚科医は、へちまで体をこするのも、皮膚を傷つけるから手で洗えとの事だ。それも、石鹸を使わないほうが良いらしい。体につている垢は湯舟に入れば、自然にとれるという。患者さんが、「湯舟に残った垢はどうなるのですか?」と、質問したが、明快な返事はなかったと怒っていた。その患者さん、今後は一番風呂しか入らないと言っていた。
今(令和2年4月)、流行しているコロナ感染症の患者さんは、仕舞い湯に入るべきだとの説もある。



         2020年12月1日
矢野耳鼻咽喉科院長医学博士 矢野 潮