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第137話「イチロー」
 イチローが世界の野球界に名をとどろかす名選手であることに異論を唱える人はいないだろう。
以前、テレビに放映される自分のファインプレーの数々見ながら、イチローが語った言葉には凄みがあった。
「自分の最高のファインプレーは、テレビに写っていない。照明が目に入って見えないままに、この辺だろうとグラブを出したら勝手に外野フライが入っていた。あの時、自分の目が見えなかった事を知っている人はいないだろう。」
私にも同じような経験がある。魚の小骨が喉に刺さった患者さんが来院した。折り悪く電気工事で電気がつかず、患者さんに口を開けて頂いて、照明なしで小骨をとったことがある。プロの耳鼻科医の経験と感だけが頼りだ。
かなり前の事だが、著名な脳科学者とイチローが、テレビに共演しているのを見たことがある。医学の分野の論戦で、舌鋒鋭いイチローに脳科学者が兜を脱いた事がある。共演していた女性タレントは笑ってごまかしていたが、テレビを見ていた私は驚いた。脳科学者が医学的なことで、イチローに言い負かされたのだ。イチローの打球も早いが頭も怖いように鋭い。
然し、そのイチローにも優しい面があるようだ。これもテレビで見たのだが、イチローは“一休さん”という大きな犬を家の中で飼っている。犬を家の中で飼っている人は、皆、心優しいと言われる。私も家の中で犬を飼っているが、我が家のは小型犬だ。イチローと私の体力差、仕方がない。

知らず知らずの内に、イチローの事を書いてしまった。

         2021年10月1日
矢野耳鼻咽喉科院長医学博士 矢野 潮