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    第七話 「カメチャン」


 少し旧聞に属するが、甲羅に「カメデス」と落書きされた亀をテレビでみた。亀の甲の落書きは脱皮して自然にとれるそうでだが、不愉快ないたずらだ。
口直しに亀についての面白い話をご紹介する。熊田藤作先生(元東京家政大学院教授)からうかがった逸話だ。以下は亀田先生のお話。
 「ペットショップの水槽にいた数多くの亀の中から、偶然に目が合った一匹を何気なく買ってきた。現在の推定年齢は10才、甲羅の大きさが3センチの赤耳亀。“カメチャン”と名付けた。自分より妻の方になついた。夫婦のベットルームの毛布の中で眠り、9時に起床してすぐに妻の所に行く。妻との握手が朝の挨拶で、妻が可愛い可愛いと全身をさすると、尻尾を振って喜びを表す。妻は“カメチャン”に接している時は必ず話かけている。数分すると自分からお父さんの方に行きたいと意思表示し妻の手からおりる。自分の手の上にのせ、いろいろと話しかけながら遊ぶ。その後は、台所、洗濯場等にいる妻の後をカタカタと追う。疾走することもある。晴れの日は展望台から外を見るのが日課。空腹になると水槽で食事をする。妻が出かける時は、その持ち物で長時間の外出か、近所のお使いかを察知する。妻が帰宅する音を聞くと玄関のたたきで待つ。妻の外出が長時間の時は甲羅を自分にくっつけ、赤ちゃんのようにあまえる。夕食後は抱っこしてほしいので足元に来て見あげる。この抱っこは眠るための準備で、妻の存在を確かめ安心してから眠りにつく。亀という原生動物が言葉を理解するはずはないが、絶えざるスキンシップから自分が可愛がられていると感じ、自分が家族として認められていることに自信をもっているようだ。常に誠意をもって話しかけ体をなでることが硬い亀の甲羅を貫き、スキンシップが生まれるのだろう。愛も継続が大事だと思う。夫婦も亀も完全に家族の一員として互いに認め合っている。

  実は、このカメチャンの話は耳鼻科診療とも密接な関係がある。最近はペット愛好者が増加したことによる動物アレルギーの患者さんが目立って多くなった。犬、猫、ハムスター、モルモット、兎、鳥類などはアレルギー疾患の原因となる。しかし、家族のアレルギー症状が悪化したからといって、飼っているペットを捨てることは動物愛護の精神からも道義的にも許されことではない。
アレルギー体質の家族は最初から毛長の動物を飼うべきではない。愛犬家の私は子どもさんがペットを欲しがる気持ちはよく理解できる。しかし、アレルギーの専門医としては症状の悪化を黙視することは出来ない。そこで私はアレルギーの原因にはならない爬虫類、両棲類をペットの候補としてすすめる。このカメチャンのように、飼い主にこれほどなつくなら亀も立派なペットになるではないか。

そこで耳鼻咽喉科専門医からの提言!

“ペットに亀を選ぼう”



           2010年7月1日
矢野耳鼻咽喉科院長  医学博士 矢野 潮