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   第十五話「杉の子 何の子」

むかしむかしの そのむかし 椎の木林の すぐそばに 小さなお山があったとさ あったとさ
まんまる坊主の 
禿げ山は いつでもみんなの 笑いもの
「こんなチビ助 何になる」びっくり仰天 
杉の子は おもわず首を ひっこめた ひっこめた
ひこめながらも 考えた 「何の負けるか いまにみろ」
大きくなって 皆のため お役に立って みせまする みせまする

私と同世代、もしくは私より年上の方はこの歌を懐かしく思いだされる事だと思う。
第二次大戦中、数多くの日本人がこの歌を口ずさみながら、杉の子を植えた。
杉の大木を育てて杉山を作り、その杉材を利用する事が、日本の将来にとって有益であるという国の政策を信じていたからだ。

真実かどうかは定かではないが、「椎の木林はアメリカを、禿げ山は日本を意味している」、と小学生の頃に聞いたことがある。

そして終戦、当時の日本人の願いのように杉の子は大木に成長し、禿げ山は立派な杉山となり、大量の杉花粉を飛散するようになった。
杉花粉症の発生だ。日本の役にたてる目的で植えられた杉の子は、今や日本の全人口の20%をこえる人々を毎年悩ませる花粉症の元凶になったのだ。
なんとも皮肉な結果ではないか。
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             2011年1月1日
  矢野耳鼻咽喉科院長  医学博士 矢野 潮