掲 載 一 覧 最 新 号
第二十三話「診療所の防犯」

 つい最近の事、6月10日(木)の17時半頃、私の診療所と目と鼻の先にある善行郵便局に刃物を持った強盗が入り、6万5千円の現金を奪い逃走した。幸いけが人はなかったという。 そこで、私は自分の診療所の防犯対策について再考した。
診療所には、受付時間中ならいつでも不特定多数の人(患者さんでなくても)が自由に出入り出来る。“待合室は外”、という概念がその根底にある。考えてみると物騒な事だ。
当院では、以前は平日朝6時に表ドアーを開け受付に用意してあるノートに患者さんご自身或いは代理の方が、お名前を書き順番をとるシステムであった。患者さんにとって簡単なこの方法にも大きな欠点があった。例え、待合室の中ドアーに錠前がしてあっても、スタッフが出勤する前の早朝の待合室は無人となる。中ドアーの鍵さえ壊せば、泥棒は簡単に診察室に侵入する事が出来る。この危険性を交番のお巡りさんに指摘された。そのため、新しく開発された医院用の予約電話システムを導入した。非常に便利となり患者さんからも大好評であった。そして、スタッフが出勤してから表ドアーを開けるようにしたので、コソ泥の進入を防ぐ事も可能になった。 しかし、この方法だけでは、郵便局に押し入ったような強盗を防ぐことは出来ない。

院長である私には、患者さんは勿論の事、スタッフの身を守る義務がある。私は、常々スタッフに、「もし、強盗が入ったら自分の体をはって強盗と差し違え、患者さんとスタッフの身を守る」、と言っているが、スタッフからは院長が一番先に逃げるのではないかと、一笑にふされている。
 
 

そこで私は、数年前にコソ泥の進入を予防するために、全館の窓に非常ベルをつけ、警備保障会社と緊急連絡網をひいた。 次に更なる抑止力としてクリニックの周りに、数台の防犯カメラを設置した。二階にあるモニターテレビで、防犯カメラの映像はいつでも再生できるようになっている。

 
 
然し、実際に録画を再生する必要があったのは一回しかない。それも当院とは直接関係ない事である。クリニックの直ぐ下の坂でひき逃げ事件があった。その該当車が当院の前を通過した瞬間を見せて欲しいという警察の要請があった時だけだ。そのひき逃げ犯は逮捕された。当院の防犯カメラが社会のお役にたてて何よりの事だと思う。
 
 

然し、診療所に防犯カメラをセットするという事は、患者さんのプライバシーの侵害にあたり、患者さんが不愉快に感じるのではないか、という考えもある。

 
 

誰もいない時に、診療所に泥棒が入っても金目の物は置いていないから怖くはないのだが、診療所には大事な“カルテ”が保存してある。カルテは患者さんの個人情報そのものだ。現実に私の知人の医院(藤沢ではない)に泥棒が入り、めぼしい物が無かったために、腹いせにカルテがメチャクチャにされたという事件があった。泥棒は一文の得もせず、院長の責任のみ大である。
 
   

患者さんからお預かりしているカルテ、保険証の安全な保存のためには、防犯ベル、防犯カメラの設置は、診療所の外部、内部を守るために不可欠と考える。警備保障会社との緊急連絡システム、不法侵入者の映像を警察に直ぐに届けられる当院の防犯設備は完璧であると自負している。
            2011年9月1日
 矢野耳鼻咽喉科院長  医学博士 矢野 潮