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第45話「専門医の優れた感と技術」

 磨き抜かれた洞察力、優れた医療技術を持った二人の整形外科医のエピソードをご紹介する。私の慶応医学部同級生のI医師と、私が藤沢で開業以来、共通の趣味を通じて親しくなった良きライバルのK医師だ。
開業して間がない頃、私は左の腕に軽い痛みを感じた。最初のうちは、新規開業によるストレスからの疲労が原因だろうと気にもとめなかったが、その痛みは半年位の間に徐々に進み、最後には激痛となり、強力な鎮痛剤も全く効果なく、一睡も出来ない夜が続く様になった。ついに我慢出来なくなり、I医師(伊勢原協同病院整形外科部長)の診察を受けた。
 
 
I医師
簡単なレントゲン検査の後、I医師は熟練の大工さんが無造作に釘を打つように、立ったままの状態で私の頸の全面下部に麻酔剤の注射をうった。

注射を受けた瞬間から嘘のようにその痛みが消え、二度と再発しなかった。この注射は根本的治療ではないから、理論的には再発するのが普通だ。然し、私にはその痛みは二度と起こらなかった。I医師も、一回の注射で治った患者はみた事がないという。その注射が危険な治療である事は私も承知していたが、彼の行為があまりに素早かったために考えるいとまがなかった。私は今でもその整形外科医を友達ながら神のようにあがめている。
次に、K医師の話だ。30年程前の元日の朝、今年こそは良い年であるようにと祈りつつ、洗顔するために腰をかがめた瞬間にギックリ腰。あまりの痛さに耐えられず、K整形外科医に「元日、早々に悪いが診察して欲しい」、と電話で頼んだが、わざわざ診察に来るより腰を温めて寝ている方が得策であるとのアドバイス。おそらく3日間で痛みがとれ、4日目には歩行可能となり、正月の5日から平常の診察が出来るだろうと予告された。まさに、彼が予想した経過を正確にたどり、1月5日の診療は無事に遂行。彼の見通しの正確さには感心した。
次に、私の家に泊まりがけで遊びに来ていた3才の姪が、夜中に急に脚が動かなくなったと泣き出した。翌朝K医師に電話。その時も話を聞いただけで、“心配ない、夕方には歩けるようになる”、と断言された。その通りになったから不思議だ。
優れた専門医が持つ、“卓越した技術と優れた感”、には驚かされた。
私も自分の専門分野である耳鼻咽喉科疾患への“感・熟練した技術”に関しては彼等に負けない自負を持っている。

その詳細は次号に述べる。
K医師は藤沢市医師会会員なので、その写真は掲載しない。
          2013年7月1日
 矢野耳鼻咽喉科院長  医学博士 矢野 潮