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第108話「医学部教育」

 最近、医大生、医師、そして医大病院での不祥事が続発している。
それを憤った投書が、某一流新聞に掲載されていた。医療に携わっている私も実に嘆かわしいことだと思う。
そして投書者は、医師の不祥事が多発する原因を、不適正な医学部教育にあると断じ、「医学部は何を教えているのだ」と、大学教育のあり方を非難している。然し、私はその点は賛同できない。
医学部だけでなく全ての大学は、その専門分野を教え、学生はそれを学び且つ研究するところだ。
大学は幼稚園や小学校ではない。他人への思いやりや人間の常識は小児期にすでに培われねばならない。
今回、多発した医師の不祥事は、その家庭環境、幼児期時代の教育に根ざすのではないだろうか。
 一つのエピソードをご紹介する。
慶応医学部時代の同級生が、ある大病院の院長に赴任した時の事、若い医師が、院長である彼と廊下ですれ違う時に挨拶をしなかった。それをたしなめたところ、翌日は廊下の反対側から、「お早うございます」と、どなり声で挨拶した。院長室に呼びつけ、挨拶の仕方を彼に教えた。その数日後、彼の母親が院長に面会に来た。何か文句を言いに来たのかと思ったら、「息子をよく叱って下さいました。息子は人様から怒られた事はありません。又、両親も怒った事がありません。息子は家に帰って大いに反省していました」と、礼を言い、菓子折りを置いていったという。
挨拶をするかしないか、今回の医師の不祥事(暴力行為、性犯罪)等が反社会的行為である事位、人は自然に認識しているものだ。
教え、教わることではない。強いて言えば幼児期の家庭教育だろう。


       2018年10月1日
矢野耳鼻咽喉科院長 医学博士 矢野 潮