掲 載 一 覧 最 新 号
第130話「路傍の犬」

 私は数年前、交通量の多い道路を横断している老犬を抱きかかえ、道路わきに運び命を助けた。良い事をしたと今でも思っている。
さて、私の慶応義塾大学医学部時代の友人の話だ。
若い頃、彼は熱心に動物実験をしていた。実験動物はモルモットから犬猫に及んだ。
私はモルモットの実験は平気だったが、犬猫の時は横から見るのも嫌だった。「モルモットは、動物実験のために生まれ来たのだ」、という気持ちが研究者にはある。私も医学博士号取得のために、かなりの数のモルモットを犠牲にした。然し、犬猫は可愛がるだけの存在だ。
彼の動物実験が佳境に入ったころ、動物愛護団体が、某一流週刊誌に「彼の実験は残酷だ、あんな医者にはかかれない」と、実名写真いりで非難した。彼は、動物愛護団体のメンバーに、あなた達がつけている化粧品も、洋服の生地も動物実験で安全性を確かめられている。あなた方こそ動物虐待の恩恵を受けているのだ。彼の言い分も正しい。
別の話で、私は動物愛護団体に世話になった事がある
数年前の事だが、自宅の車庫に二匹の猫が捨てられていた。
猫が段ボールに入れられていた事を考えると、置かれていたと言う方が正しいかもしれない。動物愛護団体に電話相談すると、次週の指定日に鎌倉の公園で引き取るという。連れてくる前に、近くの動物病院を受診し、無病の診断書を交付してもらい,予防注射を受けてから、連れてくるようにとの指示だった。

 




         2021年2月1日
矢野耳鼻咽喉科院長医学博士 矢野 潮